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東京地方裁判所 平成5年(ワ)10819号 判決

原告

浅美都子こと豊田美都代

被告

森永タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金一六〇万三八六六円及びこれに対する、被告飯高勝三に対しては平成五年七月六日から、被告森永タクシー株式会社に対しては同月四日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告に対し、金六〇一万四五九五円及びこれらに対する、被告飯高勝三(以下「被告飯高」という。)に対しては平成五年七月六日から、被告森永タクシー株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては同月四日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  原告

1  本件事故の発生

(一) 事故日時 平成三年一二月三〇日午前三時二五分ころ

(二) 事故現場 東京都台東区東浅草二丁目一番一号先路上

(三) 被告車 業務用乗用自動車

運転者 被告飯高

所有者 被告会社

(四) 事故態様 原告は、訴外麻淳一(以下「訴外淳一」という。)と訴外麻豊(以下「訴外豊」という。)とともに、被告飯高の運転するタクシーに乗車したが、訴外淳一と訴外豊が乗車中に喧嘩を始め、被告飯高が、本件事故現場付近に被告車を停車させ、同所付近の派出所に援助を求めた。原告訴外淳一及び訴外豊は、被告車から下車し、訴外淳一と訴外豊及び警察官が、被告車の後方の車道上で話し会つていたが、原告は、三名が話しているところへ行こうとして、歩道上から車道上に出ようとした際、歩道と車道の段差のためつまづき、被告車の後方にうつぶせに転倒した。そこに、被告飯高が、被告車を後方に異動させたため、被告車の左後輪が原告の左肩と左手を轢過した。

2  原告の傷害と治療状況

原告は、本件事故によつて、左肩甲骨骨折、左側胸部、左肩、左肘、左手挫傷の傷害を負い、平成三年一二月三〇日から平成四年五月二日まで白髭橋病院に通院して治療を受け、同月六日からは坂内接骨院に通院して治療を受けた。左肩甲骨骨折は、同年六月二九日治癒したが、左側胸部、左肩、左肘、左手挫傷は、平成五年三月一八日まで坂内接骨院に通院して治療を受けており、平成五年六月一六日現在も治療中である。

3  責任原因

(一) 被告飯高

被告飯高は、車両を後退させる際は、後方を注視して車両を進行させるべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて進行した過失によつて本件事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により損害を賠償する責任を負う。

(二) 被告会社

被告会社は、被告車を所有して、運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告に生じた損害を賠償する義務がある。

4  損害額

(一) 治療費 一二七万四五〇七円

白髭橋病院の治療費五一万六二九七円と坂内接骨院の治療費七五万八二一〇円の合計。

(二) 通院交通費 三三万八二六〇円

(三) 休業損害 二四一万一八二八円

原告は、訴外成田商会で稼働し、本件事故前の三か月間に合計四七万四〇〇〇円の収入を得ていたので、一日当たり五二六六円の収入を得ていたことになる。原告は、本件事故によつて、平成三年一二月三〇日から平成五年三月三一日までの四五八日間就業できなかつたので、その間の休業損害は、右の五二六六円に四五八を乗じた二四一万一八二八円である。

(四) 慰謝料 一四九万円

(五) 弁護士費用 五〇万円

(六) 合計 六〇一万四五九五円

二  被告

1  原告と訴外淳一、訴外豊が、被告飯高の運転するタクシーに乗車したこと、訴外淳一と訴外豊が乗車中に喧嘩を始め、被告飯高が、本件事故現場付近に被告車を停車させ、同所付近の派出所に援助を求めたこと、訴外淳一及び訴外豊の喧嘩に、右派出所に勤務していた警察官である訴外橋本曻(以下「訴外橋本」という。)が仲裁に入つたこと、原告が躓いて本件現場に転倒したことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告飯高、被告車を後方に移動させていないし、被告車の左後輪が原告の左肩と左手を轢過した事実はなく、被告飯塚には、過失はない。

原告が、傷害を負つた事実は不知だが、原告の主張の傷害は、訴外淳一と訴外豊が、被告車に乗車中に喧嘩をしたため、原告が仲裁に入つた際、その反動で、被告車のシート等に衝突して生じたか、原告が、自ら転倒した際に生じたものと考えられる。

2  仮にそうでないとしても、原告には、被告車が後方に移動する直前に、不注意で被告車の後方に倒れ込んだ過失があるので、原告の損害の算定に際しては過失相殺をすべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件事故態様について

1  本件においては「原告が歩道と車道の段差に躓き、被告車の後方に転倒したところ、後退してきた被告車の左後輪で原告の左肩が轢過された」旨の、原告の主張に沿う甲一〇、一一及び原告本人尋問における原告の供述がある一方で、「被告車の運転席に戻り、被告車のサイドブレーキを引いたところ、警察官の訴外橋本が助手席のドアをどんどん叩いて何か言つていたので、私はどうしたのだろうと思つて被告車から降りてみると、原告が寝ている訴外豊の上に覆い被さるような姿勢から状態を起こし、顔を被告車の左後部のタイヤにつけていた。被告車を後退させていないし、被告車が自然に後退したことはない。」旨の、乙一及び被告飯高本人尋問における被告飯高の供述があり、双方の主張に沿う証拠が存在する。

2(一)  ところで、被告飯高が救助を求めた派出所で勤務していた警察官である訴外橋本は、証人尋問期日において「勤務中、派出所前の路上に被告車が止まつてクラクションを鳴らした。歩道上に出て、被告車に近づいたところ、後部左座席のドアーが開いて、中で男性二人が取つ組みあいの喧嘩をしているのがわかつた。さらに助手席のドアーが開いて原告が「止めてください」と言い、運転席にいた被告飯高も、「何とかしてくれ」と言つてきた。喧嘩を止めようとし、後部座席の助手席側に座っていた男性を路上に引きずり出したところ、もう一人の男性も一緒に路上に出てきて、路上で喧嘩を始めた。すぐに原告と被告飯高も降りてきて、私を含めた三人で喧嘩をやめさせようとした。訴外豊がぐつたりして歩道上に倒れてしまつた。連絡のため、派出所と本件事故現場を一、二度行き来した後、訴外豊のところに戻り、大丈夫かなどと聞いていた。そのとき、原告の「痛い、痛い」という声が聞こえたのでその方向を見ると、原告が、頭と胴体を被告車の右側の外側部分に出し、左手を伸ばし、右手で被告車の左後輪を叩くような姿勢でうつぶせに倒れていた。直後に、被告車の左後輪が二〇センチメートルほど後退し、原告の左肩の接触したところを見た。被告車の後輪は原告の左肩に乗り上げではいないが、左肩に接触した。すぐに助手席の方に行つて、助手席側のドアを二、三度叩き、運転席にいた被告飯高に「止まれ、止まれ」と言つた。被告車の後方に戻り、訴外淳一とともに被告車を前に押し出そうとしたが、被告車は動かなかつた。原告の所に走つていつて、原告の右手を引つ張り、その後両足を引つ張つて原告を被告車から引き離した。その後、運転席のドアーの所に言つて、被告飯高に、何やつている、車を前に出せ」と言つた。現場は、水平な所で、被告車が自然に動くことはない。被告車が後退したことは間違いない。」と供述している。

(二)  このように、訴外橋本は、被告車が後退し、原告の左方に接触したこと、その際、被告飯高が被告車の運転席にいたことを明確に供述しているところ、その供述内容には、不自然、不合理な点は見受けられないこと、訴外橋本は、原告が転倒していた被告車の左後輪付近の直近で目撃しており、目撃状況にも不自然な点はなく、信用性を担保するに十分であること、訴外橋本は、被告飯高が援助を求めた派出所の警察官であり、双方当事者との私的な関係はなく、証言の中立性、客観性が担保されていること、訴外橋本は、平成五年一二月一一日に実施された実況見分の際にも、細部では食い違いう点も認められるものの、被告車が後退して原告の左方に接触したことは指示しており(甲九)、訴外橋本の供述は、本件時から一貫していると認められることなどに鑑みても、その信用性は高いと認められる。

3(一)  乙一及び被告飯高の本人尋問期日における供述は、本件事故に至る経緯、本件事故発生時に被告飯高が被告車の運転席に乗車していたこと、その際、原告が、被告車の左後輪付近の路上に倒れており、訴外橋本が被告車のドアを叩いたことなど、概ね、訴外橋本の右供述に付合するにもかかわらず、被告車が後退していないとの点においてのみ、信用性の高い訴外橋本の右証言に付合しない。のみならず、被告飯高は、本件事故直後の平成三年一二月三〇日に実施された実況見分の際には、被告車が後退し、原告に被告車の左後輪が接触したと指示しているのであり(甲七)、乙一及び被告飯高の本人尋問期日における供述は、かかる被告飯高自身の指示内容とも矛盾する。被告飯高は、右実況見分調書の指示内容は事実と異なると供述するのみで、なぜ事実と異なる内容を指示説明したかについて、何ら合理的な説明をしていないので(被告飯高は、本人尋問期日において、「医療費負担の話は出たが、医療費負担のため、被告車が後退したことにしてくれと依頼されたことはない」と明確に供述しているので、医療費を被告らが負担し、その見返りとして本件事故を処罰しないこととするために、被告飯高が事実と異なるにもかかわらず、被告車が後退したと認めたとは認められない。)、甲七中の指示説明が、事実と異なるとは認められない。

したがつて、乙一及び被告飯高の本人尋問期日における供述中、被告車は後退していないとの部分は信用できない。

(二)  他方、甲一〇、一一及び原告本人尋問期日の原告の供述は、訴外橋本の右供述に付合し、信用できると認められる。

4(一)  以上の次第で、当事者間に争いのない事実の外、甲一、七ないし一一、原告本人尋問の結果並びに乙一及び被告飯高の本人尋問期日における供述(前記のとおり、信用できない部分は除く)よれば、「原告は、訴外淳一訴外豊とともに、被告飯高の運転するタクシーに乗車したが、訴外淳一と訴外豊が乗車中に喧嘩を始めたため、危険を感じた被告飯高が、警察官に援助を求めようと、本件事故現場付近に被告車を停車させ、同所前の派出所に援助を求めた。原告、訴外淳一及び訴外豊は、被告車から下車したが、同所付近の路上で喧嘩を続けた。このため、訴外橋本が両名の仲裁に入つた。しばらくして、訴外豊が路上に転倒して意識を失つたため、訴外橋本が、二、三度本件事故現場と派出所を往復した。その後、原告が、立つていた歩道上から、車道上に出ようとした際、歩道と車道との段差に躓いて、被告車の左後輪付近の車道上に、頭と胴体を被告車の右側の外側部分に出し、左手を伸ばし、左肩が被告車左後輪付近にある状態で転倒した。間もなく、被告飯高が被告車の運転席に乗車していた際、被告車が後退し、左後輪が原告の左肩に接触した。」事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  次に、右各証拠によれば、本件事故現場付近の道路は平坦であり、サイドブレーキのかけ忘れ等から、被告車が自然に後退するとは考えがたいこと、被告飯高の他に、被告車の運転席に乗車した人物はいないことに鑑みると、本件は、サイドブレーキのかけ忘れ等から、被告車が自然に後退して発生したものではなく、被告飯高が、左後方を十分に確認しないまま、被告車を後退させた結果、被告車の左後輪が原告の左肩に接触して発生したものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  以上の次第で、本件事故は、被告飯高が、左後方を十分に確認しないまま、被告車を後退させた結果、被告車の左後輪を原告の左肩に接触させて発生したと認められ、これに反する被告らの主張は採用しない。

二  原告の傷害の程度

次に、原告は、本件事故によつて、左肩甲骨骨折、左側胸部、左肩、左肘、左手挫傷の傷害を負つたと主張している。

前記のとおり、被告車の左後輪が接触したのは原告の左肩部分だけであり、その際、左肩以外の部分に被告車の圧力がかかつたとは認められず、かかる本件事故の形態からみると、左肩甲骨骨折、左肩挫傷の傷害は生じうるとしても、左側胸部、左肘、左手挫傷の傷害が生じるとは考えがたいこと、前記認定のとおり、原告は、本件現場付近の歩車道の区分の段差に足を取られ、自ら転倒しており、その際、左側胸部、左肘、左手挫傷の傷害を負う可能性が否定できないこと、本件現場で、訴外淳一と訴外豊の喧嘩をやめさせようと仲裁に入つており、その際にも、左側胸部、左肘、左手挫傷の傷害を負う可能性が否定できないことから見ると、右傷病中、左肩甲骨骨折及び左肩挫傷の傷害は、被告車の左後輪が原告の左肩に接触したため生じた傷害であると認められるが、左側胸部、左肘、左手挫傷の傷害は、原告が、自ら転倒した際に生じた傷害である疑いが強く、左側胸部、左肘、左手挫傷の傷害と本件事故との間の因果関係が証明されたとは認められない。また、左肩挫傷も、左側胸部、左肘、左手挫傷と同様に、本件事故以外が原因で生じる可能性は否定できないが、原告の左肩に、原告が左肩肩甲骨骨折の傷害を負う程度の被告車の外力がかかつたことは明らかであり、被告車の左後輪が接触したことでも左肩挫傷の傷害が生じたことは明らかであるから、左肩挫傷の傷害については、本件事故と因果関係を認めるのが相当である。

よつて、本件事故によつて生じたと認められるのは、左肩甲骨骨折及び左肩挫傷の傷害のみであると認めるのが相当である。

第四損害額の算定

一  原告の損害

1  治療費 七一万一五〇七円

(一) 甲二、四、一二、一四、一六、一七、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、左肩甲骨骨折、左側胸部、左肩、左肘、左手挫傷の傷病名で、平成三年一二月三〇日から平成四年五月二日まで白髭橋病院に通院して治療を受け、同月六日からは坂内接骨院に通院して治療を受けたこと、左肩甲骨骨折は同年六月二九日治癒したが(左肩甲骨骨折が平成四年六月二九日に治癒したことは、原告の主張することころであり、甲四により認められる。)、原告は、少なくとも平成五年三月一八日まで坂内接骨院に通院して治療を受けており、平成五年六月一六日現在も治療継続中であることが認められる。

ところで、前記認定のとおり、原告が本件事故によつて負つた傷害は、左肩甲骨骨折及び左肩挫傷だけであると認められる。白髭橋病院のカルテによれば(甲一二)、初診時には、原告の左肩、左肘、左手関節に擦過創が認められたこと、左肘と左手関節に発赤が認められ、疼痛を訴えたこと、X線上の異常はなかつたこと、左肩、左肘、左手関節の各打撲で全治二週間程の傷害と診断されたこと、その後、X線検査で左肩甲骨骨折が判明したこと、白髭橋病院での治療は、左肩甲骨骨折の治療に費やされ、左肩挫傷についての治療はほとんど行われていないこと、平成四年四月二二日には骨折は癒合していたこと、坂内整骨院に転院後の同年六月二九日に左肩甲骨骨折は治癒したことが認められる。

以上の事実によれば、原告が本件事故で負つた左肩挫傷の傷害は、二週間程度で治癒する見込の軽微な擦過創であり、白髭橋病院の治療のほとんどが左肩甲骨骨折の治療に費やされていることに鑑みても、左肩甲骨骨折が治癒した平成四年六月二九日には、左肩挫傷は既に治癒していたと認められる。したがつて、本件と相当因果関係が認められる治療期間は、左肩甲骨骨折が治癒した平成四年六月二九日までの期間であると認められる。

(二) そこで、相当な治療費の額であるが、白髭橋病院の通院は、左側胸部、左肩、左肘、左手挫傷の傷害の治療もさることながら、そのほとんどが左肩甲骨骨折の治療であると認められるので、その治療費五一万六二九七円は、本件と相当因果関係のある損害と認められる(甲二)。

次に、原告本人尋問の結果によれば、原告は、白髭橋病院で治療を受けていたが、通院に便利な坂内接骨院に転院したこと、右転院には被告会社の担当者の了解を得ていること、坂内接骨院の治療の効果が上がつていることが認められるので、左肩甲骨骨折が治癒した平成四年六月二九日までの間の坂内接骨院での治療も、本件と相当因果関係が認められる。したがつて、坂内接骨院の平成四年六月二九日までの治療費中、左肩甲骨骨折の治療に要した費用が、本件と因果関係のある損害と認められる。甲一六によれば、原告は、平成四年五月六日から同年六月二九日までの間に、四六日間、坂内接骨院に通院して治療を受けたが、左肩甲骨骨折の治療に要した費用は、一回に三五〇〇円の四六回分で一六万一〇〇〇円、初検料三〇〇〇円、二回目以降の再検料が一回五〇〇円で四五回分の二万二五〇〇円、保温用サポーター代が三七一〇円、診断書代が三〇〇〇円、診療報酬明細書代が二〇〇〇円の合計一九万五二一〇円と認められる。

(三) 以上の次第で、相当な治療費の額は、白髭橋病院の治療費五一万六二九七円と坂内接骨院の治療費一九万五二一〇円の合計の七一万一五〇七円と認められる。

2  通院交通費 二五万三四一〇円

(一) 甲一八及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、平成四年一月から同年五月までの白髭橋病院と坂内接骨院の通院は、公共交通機関を利用する場合とタクシーを利用した場合があつたこと、公共交通機関を利用した場合の通院費は、白髭橋病院が片道三二〇円、坂内接骨院が片道三六〇円であること、原告の左肩甲骨骨折という傷害を考えると、通院にタクシーを使用したことも相当であることが認められる。

甲一九の一ないし二六、二〇の一ないし四〇、二一の一ないし四〇、二二の一ないし一五、二三の一ないし九によれば、原告が、白髭橋病院と坂内接骨院の通院のために支出したタクシー代は、合計二〇万〇〇五〇円と認められる。

(二) 甲二によれば、原告は、平成四年一月に二二日間通院しているところ、甲一九の一ないし二六によれば、このうち、一一日間は往復タクシーを使用し、四日間は片道タクシーを使用していることが認められるので、公共交通機関を利用して通院したのは、片道が四日間、往復が七日間と認められる。したがつて、同年一月分の公共交通機関を利用した通院費は、五七六〇円と認められる。

甲二によれば、原告は、平成四年二月に二二日間通院しているところ、甲二〇の一ないし四〇によれば、このうち、二〇日間は往復タクシーを使用していることが認められるので、公共交通機関を利用して通院したのは、往復が二日間と認められる。したがつて、同年二月分の公共交通機関を利用した通院費は、一二八〇円と認められる。

甲二によれば、原告は、平成四年三月に二五日間通院しているところ、甲二一の一ないし四〇によれば、このうち、二〇日間は往復タクシーを使用していることが認められるので、公共交通機関を利用して通院したのは、往復が五日間と認められる。したがつて、同年三月分の公共交通機関を利用した通院費は、三二〇〇円と認められる。

甲二によれば、原告は、平成四年四月に二五日間通院しているところ、甲二二の一ないし一五によれば、このうち、七日間は往復タクシーを使用し、一日間は片道タクシーを使用していることが認められるので、公共交通機関を利用して通院したのは、片道が一日間、往復が一七日間と認められる。したがつて、同年四月分の公共交通機関を利用した通院費は、一万一二〇〇円と認められる。

甲二によれば、原告は、平成四年五月に、白髭橋病院に二日間通院しているところ、甲二三の一ないし九によれば、このうち、一日間は片道タクシーを使用していることが認められるので、公共交通機関を利用して白髭橋病院に通院したのは、片道が一日間、往復が一日間と認められる。したがつて、同年五月分の公共交通機関を利用した白髭橋病院の通院費は、九六〇円と認められる。

甲一六によれば、原告は、坂内整骨院には、平成四年五月に二二日間、同年六月二九日までの間に二四日間通院しているところ、甲二三の一ないし九によれば、このうち、一日間は往復タクシーを使用し、四日間は片道タクシーを使用していることが認められるので、公共交通機関を利用して坂内整骨院に通院したのは、片道が四日間、往復が四一日間と認められる。したがつて、同年五月分及び六月分の公共交通機関を利用した坂内整骨院の通院費は、三万〇九六〇円と認められる。

よつて、原告が公共交通機関を利用して白髭橋病院と坂内整骨院に通院した通院費は、合計五万三三六〇円と認められる。

(三) 合計

したがつて、原告の通院交通費は、右のタクシー代の二〇万〇〇五〇円と、公共交通機関を利用した通院費の五万三三六〇円の合計二五万三四一〇円と認められる。

3  休業損害 九四万二八一六円

甲一〇、一三及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、訴外成田商会の代表者で家政婦として稼働し、訴外成田商会の代表者の母親の世話をしていたこと、右の収入として、本件事故前の平成三年一〇月から同年一二月までの三か月間(九二日間)に合計四七万四〇〇〇円を得ていたことが認められ、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。ところで、前記のとおり、本件事故と因果関係の認められる傷害は、左肩甲骨骨折と左肩挫傷であり、その傷害の内容、程度、前記の治療の経過によれば、左肩甲骨骨折が治癒した平成四年六月二九日までの一八三日間の休業期間が、本件と相当因果関係のある休業期間と認められるところ、右各証拠によれば、原告は、右期間中、本件事故によつて受傷したため就労しなかつたため、訴外成田商会からの収入を得ていないこと、原告の職業、症状、治療状況に鑑みると、原告は、右の期間、全く就業しえなかつたことが認められる。

原告の収入である四七万四〇〇〇円は、一日当たり五一五二円となるので(円未満切り捨て)、原告の休業損害は、右の五一五二円に一八三日を乗じた九四万二八一六円と認められる。

4  慰謝料 一〇〇万円

原告の傷害の程度、原告が治癒までに要した通院期間、その他、本件における諸事情を総合すると、本件における慰謝料は一〇〇万円と認めるのが相当である。

5  合計 二九〇万七七三二円

二  過失相殺

前記認定のとおり、本件事故は、原告が被告車の左後方にうつぶせに倒れているにもかかわらず、これに気づかないまま被告飯高が被告車を後退させた結果、発生したものであり、被告飯高の過失は決して軽視できるものではないが、他方、原告にも、本件現場付近の歩道から車道に出る際、不注意にも、その段差に躓き、被告飯高から、いささか発見しづらい被告車の左後方に転倒したという過失が認められる。原告が、歩行者として、通常要求される程度の注意義務を果たし、路上に転倒してさえいなければ、およそ本件事故は発生していなかつたという点で、原告の過失は重大と言わざるを得ない。

これら本件事故の態様、原告、被告飯高の双方の過失の態様に鑑みると、本件では、原告の損害から五割を減殺するのが相当であるので、その結果、原告の損害額は一四五万三八六六円となる。

三  弁護士費用 一五万円

本件訴訟の難易度、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は金一五万円が相当であると認められる。

四  合計 一六〇万三八六六円

第五結論

以上のとおり、原告の請求は、被告らに対して、各自、各一六〇万三八六六円及びこれに対する、被告飯高に対しては本訴状送達の日の翌日である平成五年七月六日から、被告会社に対しては同じく同月四日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

(裁判官 堺充廣)

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